賽ノ目手帖Z

今年は花粉の量が少ないといいなあ

’00・・・まあ最近

  •  それにやっぱりロックンロールのすべてがほしい、ロックンロールをすべての意味で生きたいっていうね、そういう連中はまだまだいるはずだと思うし、今の俺達にとってもそういうもんなんだ。っていうか、その気持ちは尚更強くなってると思うんだよ。これは四人を代表していいたいけれども、それを追求したいという気持ちがかつてなく増幅してるんだよ。その気持ち、その思い、音楽は本当に世界を変えられるっていう、変えられなかったとしても世界の温度は変えられるっていうね。

   全員「アーメン」

 

  • でも、どうして俺達がそういうことをやったのかというと、みんながスタジアムに俺達を観に来るんだったら、やっぱりぶっとびなスケールで、俺達の姿もステージの蟻んこじゃだめだと思ったからなんだよ。……それなのに人は「やっぱり昔のようにあなたたち四人のままの方が良かったんだけどな」っていうわけだ。それで俺も「でも、俺達四人だけがスタジアム級の会場で演奏してるのを観たことがある?」って訊くと、「ある」っていう。こっちは訊き返すんだよ、「ほんと? それで満足なの?」ってね。すると「満足だよ」っていうから「ほんとなの、それ? 俺達にはそんなのボラれてるとしか思えないんだけどな」って突っ込んでみると、「自分が観に来てるのは曲を聴きたいからであって、花火を見たいからじゃないんだよ」っていわれて、そういう言葉を聞くと、やっぱりどこか謙虚な気持ちにはなったよね。で、いずれまた将来的にどこかで巨大なショーをやるだろうと思うけど、でも、しばらくはないと思うんだ。これからは各地へ伝わる曲を書くこと、まずはそれに専念したいと思うんだよ。

 

  • 「俺は『アンフォゲッタブル・ファイア』が好きなんだけど、ただ八十年代のアルバムでは俺の歌い方に娘っぽいところがあるのが多くて、それでなかなか聴き直す気になれないんだよね。でも、今になって思えば『アンフォゲッタブル・ファイア』はよくできた作品だと素直に思えるし、しかも、マイルス・デイヴィスが特に気に入っていたレコードだというからね」
  • ・なるほどぉ。
  • 「これってかなりイケてるよね」

 

  • 橋渡しになったのは実はハウイーBだったんだ。ハウイーはアルバム『ポップ』に参加しただけでなく、DJとしてツアーにも同行して生の音をいじりまわしてた。(中略)さて、僕らある日の午後、ワシントンDCのホテルの地下でリハーサルをやってたんだけど、間に合わせのリハ現場だからサンプラーだの何だのテクノロジーは一切持ち込めなくてね。使ってたのはベースとドラムスとギターのアンプが一台ずつ。そしたらハウイーがのけぞって、『うっわぁ何だそれ、その音! 一体どうしたんだよ!?』って。で僕は『っと・・・これはロック・バンドってもんで』って。

 

  • クラッシュは凄いシングル曲を出した、セックス・ピストルズも、ビートルズも、ストーンズも、そうニルヴァーナも、我々のヒーローはみんな、凄いシングル曲を出してきた。僕らがやりたいのもそれだ。この時代にもふさわしい。ロック・ミュージックが現代文化の中で力を失ってしまったのは、偉大なシングル曲不足のせいじゃないかな。

 

  • 肯定的な歌を書くうえで難しいのは超越的な概念が描き出せるかという・・・つまり、陰影のある喜びを見出せるかどうかということなんだ。平坦な喜びはただのセンチメンタリズムだよ。でも本当の喜び、人生がいかに面倒なものかということを踏まえた喜び、それこそがツボなんだ。そして、これを扱わせたらロック・ミュージック以上にうまくやれる音楽はないと思うんだ。こんな家なんか出てやるとか、上司に向かってクソくらえって言ったりとか、大好きな彼女に一緒に住もうよと言ってみるとか、足元にコップぐらいの大きさに見える水泳プールめがけてビルから飛び降りてやるとか、ロックってのはそういう気持ちにさせてくれるんだよ。そういう気のふれたような喜びってのが、ロックの醍醐味なんだよ。

 

  • 「そしてゴスペルもね。ある意味、このアルバムはゴスペルに特に強く影響されてるともいえるんだ。今作のスピリット、なんとか歓喜へ向かおうとする決意のようなもの、これはゴスペルのスピリットだからね。だからある意味『ビューティフル・デイ』はゴスペル・ソングともいえるんだよ。この歌のテーマというのは、ある男がなにもかも失って、そこから解放感を得て、これは人生最高の日だっていうもので。これは一種の決意だ。この決意が違いだと思う。自分は喜ぶんだと決意した時に、ゴスペル・ミュージックが生まれるんだ」byエッジ

 

  • 正直さの方が、肯定性以上に大切じゃないかな。だからこそ最終的には高揚感が残るんじゃないか・・・ニルヴァーナだって高揚する音楽だった。なぜって正直だったから。世界に対する正直な想いが出てたから。音楽は決して、小奇麗な絵を描いちゃならない。

 

  • もともとの計画では、レコーディングする前に曲を身に付けておくつもりだったんだよね。というのも、僕はラジオから流れてくる自分の声が大嫌いで、そのことをある時プリテンダーズのクリッシー・ハインドに言ったことがあるんだ。そしたら彼女『どこがそんなに嫌いなの?』と訊くんだ。だから僕は、どうもこう締め付けられてるようなところ、ライヴで歌ってる時のように聴こえないところだね、と答えた。すると彼女は『あなた、あらかじめ曲を理解してから歌ってる?』と訊いてきた。ノーと答えると、『あなたシンガーでしょう? それなら、自分のためだと思って、歌詞の内容を理解してから歌いなさい』って言われた。

 

 

  • ・・・つまり、俺たちが珍獣なんだよ。誰かが以前俺たちとヴァン・モリソンを比べて言ったんだけど、殆どの人間は女の子について曲を書くことから始めて、神についての曲を書くようになるもんだと。俺たちは完全にその逆を行ってるよな!

 

  • 「生き残ってこれた理由のほとんどは、ボノにあるんじゃないかと思うよ。奴は、そういった中途半端な努力とは本当に遠い所にいる人間だろうからね。ボノには、激動を上手く乗り切り、屈しない驚くべき才能、信じられない力があるんだよ。そんな奴らはほとんどいないし、U2が犯してきた様なリスクを背負おうとするバンドも見当たらない。その事が、ボノをボノたらしめる所以なんだよ」byラリー

 

  • 自分にとって、最もエキサイティングな夢は、起きてる時に見る夢なんだ。つまり、通りを歩いていて、大きなアイデアが生まれて、どうしたらそれが実現できるかって考えるようなことだ。それが最高の夢だね。これまでの政治的な活動は、こういった夢から沸きあがったものなんだ。抽象的なアイデアを具体的なものと変えていく。そういったことが好きなんだよ。非現実的な願望は好きじゃない。ジョン・レノンの「イマジン」は、彼の曲の中で最も好きじゃない曲なんだ。彼は素晴らしいけど、想像するだけでは足りないんだ。まずは想像して、それからそれを構築していって、具体的にしていき、しっかりとした根拠を持って実現に向かって行動する。ロマンを追いかけていくことよりも、現実味のあることの方に興味があるんだ。若かった時は、夢を見ているだけで充分満足していたけど。

 

  • 1984年に、エチオピアの飢餓救済の為に2億ドルを集めたライヴ・エイドU2も参加した。2億ドルなんて俺からすれば充分な額だと思っていたけどな。第三世界諸国は、毎月債務返済額にこの金額を富裕国に支払っていると聞かされるまではね。唖然としたよ。

 

  • ライヴ・エイド後には、妻と共に一ヶ月を過ごしたんだ。生まれて初めてこの眼で、飢餓の惨状を目にしたんだけど、それは決して拭い去る事は出来なかったね。そこでいつか何か貢献する方法を見つけてやると自分自身に誓ったんだ。

 

  • 「朝起きると、ちょうど霧が晴れる頃なんだ」ボノは振り返る。「テントの外を歩き、死者や捨て子の数を数える。更にやりきれない事に、一人の子供の父親がやってきて、自分の生きている子供を差し出そうとするんだ。“持っていってくれ。こいつがあんたの子なら、死なずに済むんだから”と言うんだよ」。

 

  • アメリカは、地球的な規模での債務削減に参加するのを最も渋ってた先進大国であった。アメリカがそれに参加したのも、ボノとシュライバーに率いられた共同ロビー活動のおかげであった。活動自体は2年前に始まったが、99年夏には失敗に終わりそうにもなった。活動が行き詰まりそうになったある時などボノは、10月にU2を連れて債務帳消しに反対している議員の地元を廻って演奏し、若者に反対議員の解職を求めるよう呼びかける、と脅しを口にした事もあった。「“こいつらは頭がおかしいよ”と人々は思った。でも、私達が全くの本気である事も分かったはずだ」。シュライバーは言う。「ボノは、こんな感じだったよ。“俺はこの為なら闘争を始めてもかまわない”ってね。これは、ワシントンには充分なインパクトがあった」。

 

  • 「私はね、結局は有名人がワシントンで大きなインパクトを持つ事はないと思う。なぜなら、彼らはやって来てカメラの前に収まり、去っていくだけだからね。しかし、私はU2の他のメンバーはボノをバンドから追い出したかったと思うよ。彼は昨年この運動にとても集中してたからね。もし、政府を動かしたいのなら長期間それに没頭しなければならないんだ。まさに、ボノがそうだった」byジョン・カシク

 

  • 「アルバムはとても良く仕上がっているので、人々がU2にウンザリしていようがどうでもいい」とボノはつけ加えた。「これは信用できない政治家と俺が握手している光景に飽き飽きしているギタリストが原動力になっているんだ」。

 

  • それからエッジがスタジオにおけるドライビングフォースであると、ボノは説明した。「エッジは、彼の世代の中で一番才能に恵まれたギタリストだと思うよ。当然だよね。彼がアルバム制作を操りながら、『もういいだろ。これ以上怪しい政治家と写っている写真を見たら、おれは辞めるぞ』って言うんだ」。
  • 「ボノがどこまで活動にのめり込んでいるのか俺たち心配していたんだよ」とエッジは認める。「たとえ彼自身の問題だとしてもさ。結局全てが丸く収まった訳だけど、必要な時に彼がいなかったって事が何回かあったよ。ピリピリ空気が張り詰めている時も何回かはあった、確かにね」byエッジ

 

  • 慈善事業は確かに妨げになるよね。自分の時間の半分はそれに取られているからね。実際、俺はバンドを解雇されるかどうかの瀬戸際にいるからね。週末はスタジオに戻って、何年も前に終えていたはずの曲に取り掛かるんだ。

 

  • U2が異例の立場に置かれてるってことは、俺たちにもわかっているよ。それに、俺たちは成功によってとてつもなくスポイルされてしまってるから、簡単に標的にされてしまうのさ・・・。虐待されてるともいえる(笑)。『あいつらがいいはずがない。だって、大勢の人間が気に入ってるんだから』っていうのはものすごく危険な考え方だよね。

 

  • 「財政的なことを言えば・・・まあ僕たちが言うのは簡単かもしれないけど、とりあえず後から付いてくるものだと思うんだよ。本当に良いものを創れば、後はどうにでもなるもの。だからそういう次元で本気で悩まされたことはないんだ。心の奥底できっと、純粋に商業的な理由から何かをやるようになったら、その日、その瞬間で終わってしまうってことを自覚しているんだろうな」byエッジ

 

  • 「うん。でも恵まれてるんだよ僕らは。これは本当に。とても忠実なファン層が基盤にあるし。商業主義のローラーコースターにのっかってしまうアーチストというのは、最新シングルがどれだけ売れたかで生死が決まってしまう。でも僕らは今作からはシングルを切ってないし、成功はひとえにアルバムとコンサート・チケットの売り上げの数だけによるものなんだ。そうした意味において僕らは珍しい立場にいると思うね。それと、ファンがちゃんと賢くて、僕らがどんどん新しいことをやっても素早く適応してくれる。そりゃ今度のツアーとアルバムで新たなファンも出来たろうし離れていったファンもいるだろうけど、U2というグループのファンの大部分はいまだ僕らについてる。だからこそ、アルバムがポシャるんじゃないかとかチケットが売れないんじゃないかとか心配せず、好きなようにやれてるんだ。創作上の自由ってやつだよ。こういうケースは多くないんじゃないかな」byエッジ

 

  • ミュージシャンの語彙の中で最も危険な言葉は何だか知ってるかい? 「面白いね(interesting)」だよ。誰かにいいアイデアが浮かんだ時、他のみんなが「それ面白いね」って言う具合さ。僕らはロックに面白くなってもらいたくない。特別でいてほしいんだ。

 

  • ほら、ある程度成功を収めちゃうと・・・もうこれだけレコードも作ったんだから、これからは“アーティスト”として暮らしていけるって時がやってくるんだ。自分を甘やかして、“アーティスト”の冠に相応しい気紛れや酔狂を実行することを許されるからね。例えば『この曲にはヴァイオリン40台鳴らして、ここのバックには水の流れる音が欲しい』とか、我がままのし放題だよ。それでも周囲は許してくれるんだ、いかにもアートっぽいわけわかんないものを作ったって、『ほう、今度はこう来ましたか』なんていわれてさ(笑)。だから一番難しいのは、一番シンプルな作品を作ることなんだよ。ギター1本で書いたような、飾りも何もないむき出しの曲を並べて、『これが僕らの作品ですよ』って言うことの方がずっと勇気がいるんだ。

 

  • 俺達は考えたのさ、今はヒップになってる時じゃない、グルーヴィになってる場合じゃない。君が道を横切ったり、壁を登ったりする時に聴くことができる歌とメロディを作る時なんだって。

 

  • ラリーやアダムは、まだ知らないから言っておくけど、エッジが新曲の入ったCDを持ってきたんだ。仮のタイトルは“Full Metal Jacket”っていうんだ。最もラフな段階のもので、ロックン・ロールの原型みたいな曲だ。どうしてこんな曲が生まれたのか分からないが、素晴らしいギターの聴ける曲だ。絶対、君も聴いてみたいと思うはずさ。だから、レコードを作りたいと思うんだけど、それくらい、いい曲なんだ。

 

  • U2の曲でうんざりしてしまうような曲は、別に良くない曲だからうんざりするわけじゃない。時々そう思うのは、例えば、「Who's Gonna Ride Your Wild Horses」なんだが、飲みに出掛けた時、そこの店でU2の曲ばかりが流れてたんだ。それで、なんて素晴らしい曲なんだとは思ったが、自分の演奏に満足できなくて、どうしてこんな演奏をしてるんだろう。もっとよく出来たはずなのに、と思って、うんざりしたよ。自分たちがもっと賢くやるべきだった。もっと上手くできたはずなんだ。そういう気持ちになる曲なら何曲かある」byラリー

 

  • 「前のクリスマス前あたりかな。ボノとエッジが言うんだ。『もうギターもボーカルもいろいろやり尽くしたよ。聴いてごらん』俺は言ったよ。『もっと良くなるはずだよ(曲が持つ本来あるべきクオリティに達していない、という感じ)』 連中は『今発売すればうまくいくはずだし、次の1枚でやろうぜ』 これにはむかついたね。それで、これは言いにくかったんだけど、というのも、エッジは日夜を問わずスタジオにいて、ギターのパートをやり続けて精魂尽き果てていたからね。そんなところに俺が入っていって『そうは思わねえな』ってな感じで意見したんだ。その言葉を告げるのは本当につらかったし、彼も唇を噛みしめて受け入れるのは難しいことだったと思う。でもそれがU2なんだよ」 byラリー

 

  • 「ある日のN.Y.は台風みたいな天気だった。アダムにはレッスンがあったんだけど、絶対レッスン変更の連絡があると思ってた。ホントにひどい天気だったんだ。ところがレッスン時間にベルが鳴って、開けるとアダムがびしょ濡れで立ってたんだよ。パンツまでびしょびしょだった。呆然と突っ立てたらアダムがアイルランド訛りでこう言ったんだ。「ええっと、タクシーつかまんなくて・・・でも練習したかったし・・・シャツ干していい?」。のけぞったよ僕は(笑) こうやると決めたことはとことんやる、アダムの態度に自分も大いに学んだね」byパトリック・ファイファ

 

  • 「うん、ま、あまり深刻ぶらずに言いたいんだけど、男性的な抑制、ダブル・スタンダードはあると思う。男性は女性の身体を見たがるもので、自分がボディビルダーでない限り他の男性の身体には目もくれない、ってやつだ。俺は、それって文化的なタブーとしてなにか間違ってると本能的に常に感じてたと自分でも思うよ。俺は自身のペニスや他人のペニスには驚くべき力と美しさがあるといつも思ってるんだ」byアダム

 

 

  • それはまさに離陸寸前っていう瞬間で、そこに写ってる自分の顔に目が行った。それは驚くほどオープンで、複雑なことなど何も知らないっていう顔だった。あまりにパワフルな無垢さだったんだ。それをじっと見てたらオランダ人のジャーナリストがやってきて、(外国訛りで)「ボノ、今ならなんて言いますか、当時のこのボノに」って聞かれて。それで、そうだな何て言うだろうって考えてたら口をついて出てきたのはこういう台詞だった――お前は完璧に正しい、あれこれ考えるのは無駄だ、って。

 

  • 「君なら原子爆弾をどうやって解体する?」彼は尋ねてくる。気の利いた返答が出来ないでいると、彼は掛けているサングラスの位置を整え、囁くように声を低くする。「愛によってだよ!」

 

引用した文献
『ボノ語録』スーザン・ブラック著(シンコー・ミュージック
『世界の涯てまでも』カーター・アラン著(大栄出版)
U2FILE』ナイアル・ストークス著(ロッキング・オン
他、音楽雑誌のインタビューからも引用しました。