賽ノ目手帖Z

今年は花粉の量が少ないといいなあ

はじめの一歩は終わったのか?

かなり今さらであるが、一歩vs宮田戦は、お流れとなってしまった。ショックである。

あまりこういう言葉は使いたくないが、これって読者に対する「裏切り」だよなあ。

プロのリングで
決着つけようって
言ったのはオレだ

一方的に押しつけた話だ
だけど オレは・・・
約束だと思ってるよ

という宮田の“約束”は、同時に作者と読者との約束でもあったのではないか。
上の言葉を宮田が言ったのは、1998年の51号。そして52号で、鴨川会長が

防衛戦を重ねる度 残酷な現実を
つきつけられるじゃろう
小僧がくじけずに一皮も二皮もむけ
それを乗り越えられるようであれば

おのずと あいまみえること
になろう 宮田一郎と――

という言葉を残しており、改めて振り返ってみて、以後の「はじめの一歩」は、このガイドラインに導かれて進行していったといって良いと思う。
それ以降の防衛戦、島袋岩男戦にせよ、沢村竜平戦にせよ、「デンプシー・ロールの進化」をテーマに生まれたものであり、結果デンプシーは、「無限の進化を秘めた技へと進化」していったワケで、沢村戦の次は、当然宮田戦だろうと、みんな思っていたハズだ。

だが、ここら辺から「はじめの一歩」は、おかしな方向へと向かい始める。


次の対戦は、唐沢たくぞー。今ではすっかり暗くなってしまったジムを、昔のようにぱーっと明るくしたいがために、一歩という怪物王者にあえて挑むナイスガイであるが、いかんせん、あまりに役者不足であった。
単なる虐殺劇に終わってしまったこの試合で、森川ジョージがなにを描きたかったのか、よく分からないのであるが、とりあえず、もはや一歩は「国内に敵無し」であることを改めてアピールすることができたのだから(沢村を血祭りにあげた時点で充分アピールできたと思うけど)、堂々と東洋王者である宮田一郎に挑戦できるワケだ。

そして2003年の47号にて宮田戦が内定。半年に及ぶ板垣の新人王戦など、いささか回り道したけど、ようやく13年越しの“約束”が実現するのかあと、この時はドキドキしたものでさあ。結局、流れたんですけどね。

えっと、これ、ヒドくね? 「来年の春にやりますよ~」っていっておきながら、3年近く待たせておいた挙句、「縁が無かったと思ってくれ」って・・・

U2で言えば、「2006年の春に来日するぜ!」と宣言してたのに、2008年の春になっても日本に来てくれなくって、「縁が無かったと思ってくれ」とか言われたら、どうするよ?

まあ暴動が起きても仕方がないのではないかと思いますが、まさに「はじめの一歩」では、そのような事態に至ってしまったワケで、「これはヒドい」としか言いようがないです。

いやまあ、本当に「縁が無かった」のなら、それはしょうがないですよ。「物語」というものは、得てして作者の思惑から外れてしまうものですし、その「物語」の必然の力に従う方が、むしろ正しいと思う。あきらめます。でもですね。今回の件は、明らかに作者が「逃げた」としか言いようがないですよ。

そもそもの経過をたどると、一歩が宮田と試合が出来なくなってしまったのは、宮田が試合中に骨折→延期→Mr.サカグチの謀略発動→中止 という流れなんですが、なんで宮田が骨折したのかというと、「試合中によそ見したから」。いやいやいやいや、それはないだろう。極度の減量により、半病人状態でリングに上がる宮田は、それゆえ極限まで集中力を研ぎ澄ませて戦うことが身上のボクサーであり、そんな選手がよそ見するかあ?

ここには必然性もクソもなく、キャラクターの魅力を損ねてまで、作者の都合の良い展開にもってゆこうとする恣意的な思惑しか見えず、この試合で、「はじめの一歩」を見捨てたファンも多いと思う。ファンサイトも激減しますよ。

ワタシもほとんど絶望しかけたけど、それでもまだ森川ジョージを信じようという気持ちがあった。
ジョージは必ず一歩vs宮田戦を描いてくれる。ただ、この試合は下手すると、いや下手しなくても「世紀の大凡戦」になってしまう可能性が大だから、時間が欲しい。そのために無理矢理宮田に骨折させたのだろうと好意的に考えてました。今さら1年2年延びたって、それで素晴らしい試合が読めるんだったら、それはもう、全然構わないよ。いや、たとえ「世紀の大凡戦」になってしまっても、オレは構わないよ。

ただ全力で描いてもらえれば。森川ジョージの、今もてる限りの力で描いてもらえるのなら、結果、それがどんなヘボな出来でも、一向に構わないさ!

この前連載が終了した「エアマスター」(柴田ヨクサル)という作品も、終盤はずいぶんな出来であったけど、それでもワタシは単行本買いますよ。この作者がありったけの力で描いてることが分かるから。

森川ジョージも、一歩vs宮田戦を、「最終回のつもりで描いた」という一歩vs千堂戦と同じ気合で描いてくれるのなら、それがどういう内容になろうと、まったく不満はないんだけど、逃げちまいましたよ。

逃げるものか、オレは挑戦者なのだから」とか、「それこそは恐怖に打ち勝つ唯一の武器! そして幕之内一歩最大最強の武器、 『勇気』じゃ!!」とかいった言葉が、軒並みペラッペラな言葉になってしまったんですけど、どうしてくれるんですか? いちいち感動してたオレの気持ちを返せ!

「たかだかマンガでの試合が中止になったくらいで大袈裟な」と、お思いになる方もいらっしゃるかと思われますが、しかしですねえ。このマンガはU2よりも長い付き合いなんですよ。そういう意味でU2と同じくらい思い入れがある作品なんですけど、まさかこんなことになるとは・・・

U2の来日公演が延期なったと聞いた時はショックだったのですが、その前にも宮田の「縁が無かった」発言にもショックを受けていて、なんというか3月はダブルショックでした(笑)

多分、今後の「はじめの一歩」は、リニューアルされた「はじめの一歩」になるのでしょう。そのため、昔の一歩の象徴みたいなキャラだった宮田一郎は“リストラ”されたと。今後は、板垣みたいなキャラ主流になるのだろうか。それはまあ、ワタシには全然関係のないマンガです。

久しぶりにマンガ喫茶で「はじめの一歩」を読み返し、このページで、ちょっと泣けた。土下座すべきは、宮田じゃなくて、ジョージだよな