賽ノ目手帖Z

今年は花粉の量が少ないといいなあ

反省会「スピナマラダ」(野田サトル)感想

いまだに悔しくて目がさめる。(by樋口キャプテン)

そんな毎日を送ってる「スピナマラダ」ファンの皆さん、こんばんわ。あの時、もっとこの作品をプッシュしておけば・・・ッ! あの時、なりふり構わず宣伝しておけば・・・ッ!! もう終わったことであります。これから毎週スピナが読めない人生を生きていくのが何だか信じられないよ(「羊のうた」(冬目景)の水無瀬さんっぽく)。

後はもう、12月に出る最終巻(6巻)が爆売れして、「スピナが打ち切りって、単行本が売れてないんだから当然じゃ~ん」とか宣ってる連中を見返しやるぐらいしか、楽しみはないワケですが、もう完全に手遅れながら、改めて「スピナマラダ」の面白さについて、書いてみようかと。

まあ、こうしてググってしまえば、実にたくさんの方がこの作品の魅力を語ってらっしゃいますので、屋上に屋を重ねるがごとき愚行は避けたいところですが、ここはあまり語られてないであろうと思われる、「少年マンガとしてのスピナマラダの魅力」に焦点を合わせてみたいなと。

スピナマラダは少年マンガである。誰が何と言おうと、青年マンガに載ってよーがなんだろーが、これは少年マンガだとしか言いようがない。

それは、才能ある兄弟に囲まれて腐っている友人に、「ホッケーはみんなで戦うんだ。もう一人で戦わなくていいんだぞ」と勧誘するシーンとか、強豪チームと戦って大差をつけられて心が折れかけているチームメイトに「こいつらには失って欲しくない。アイスホッケーの想いまで」と奮戦する主人公とか、レギュラーの座が危うい幼馴染みに遠慮して手を抜くんじゃないかと心配するキャプテンに、「オレはケンゴ君のために手を抜こうなんて考えたことないっス」と爽やかに言い切る源間慶一とか、色々あるのですが、惜しむらくは、ヤングジャンプには「燃え上がれ少年心!」(@チャンピオンRED)という風土が乏しかった。「そういうのは少年誌でやれ」と冷たく突き放す人が多かった、多分。とても残念。

そんな少年マンガである「スピナマラダ」なのですが(確定なのかよ)、当然主人公である白川朗(ロウ)は、少年マンガに相応しい気質の持ち主であります。
幼少の頃からオリンピックの選手であった母親からフィギュアスケートの英才教育を受け、「友だちも彼女も作らず、生活のすべてをフィギュアに捧げてた」というロウ君は、いつしかプライドが人一倍高く、馴れ合いが大嫌いな「孤高の人」になってしまったのですが、にも関わらず1巻では「怖くても恥ずかしくてもこいつらは逃げずに戦ってんだ。その意地を・・・テメーらなんぞが気安く笑ってんじゃねーッ!」と激昂する男気のある人でもある。

その理由は2巻で明かされたロウの過去話から推察できます。なにかとお金がかかるフィギュア競技を続けていく為には、ロウか、双子の妹であるハルナか、どちらかがフィギュアをあきらめなければならないこととなる。
その結果、ロウよりも才能が乏しいとされたハルナが犠牲となったのですが、それがロウにはどうしても納得がいかなかった。

母さんが教えてくれたたくさんのこと…
唯一、それだけが納得いかなかった
どんなに青くさくても そのささいなことを
大切にしたかったんだ
いろんなものを犠牲にしたって最後に
残さなきゃいけない純粋なもの……

母さんを責めることはできない。その決断によって、自分はフィギュアを続けることができたのだから。
だが、自分よりずっとフィギュアが好きだったハルナの想いを犠牲にして良いことなのか。


悪の定義は人それぞれに違うし状況で変わってくるけど、
“他人を踏み台にする人”、これは絶対に、 誰が何と言おうと
悪だと思う。 (by荒木飛呂彦


ハルナを踏み台にしてロウの才能にすべてを賭けた母親は交通事故であっさりと逝ってしまった。天罰? 母親は悪なのか。そんな馬鹿な。
もし、ロウが母親の決断に対する疑問を、「やむえないこと」と放棄していたなら、恐らく機械のようなオリンピックでメダルを取るために存在するマシーンになっていたのではないだろうか。考えることを放棄した、つまらない人間になっていた気がする。

だがしかし、ロウはその疑問をいつまでも抱え続けていた。どうしてもそれが正しいことだとは思えなかったから。自分の身体もかえりみずに尽くしてくれる母を疑うことなどあり得ないがまた、それを是認することもまたどうしてもできなかったから。その葛藤が、人知れずロウの心を鍛えることになったのではないだろうか。

「いろんなものを犠牲にしたって最後に残さなきゃいけない純粋なもの」。U2ファンなら「All That You Can't Leave Behind」と言いたいところですが、それはいわゆる「黄金の心」と言われるものではないでしょうか。そしてそれはまさに少年マンガが目指しているものだとワタシは思います。

ちなみに2巻にはこんなコマがあるのですが・・・。

ふるえるぞハート
燃えつきるほど氷都!

どう見ても作者はジョジョファンです。本当に(ry

この作品にはジョジョネタのみならず、キン肉マンネタやら北斗の拳ネタやらが随所に散りばめられており、往年のジャンプ読者にはいちいちツボに来るのですが、この点もまたこの作品のストロングポイントなのだなあ。「スラムダンク」の影響もそこはかとなく感じられますね。ああそうか、だからヤングジャンプなのか。

スポーツマンガとしての熱さは「バチバチ」(佐藤タカヒロ)に匹敵すると思うのですが、バチバチの唯一の欠点が「ギャグの寒さ」でして、作者さんは頑張ってると思うのですが、そこはもうあきらめて欲しいっす。一方、「スピナマラダ」のギャグはかなり切れ味が良く、単行本のおまけマンガでは、ほとんど阿部共実を彷彿させるシュールなギャグをも披露してますので、総合力から言えば、スピナはバチバチ以上ではないかと、ワタシは勝手に思ってます。

この作品が少年誌で連載されていれば・・・。絵柄の古さとか全然気にしないチャンピオンに来てくれれば・・・と何回思ったか分かりませんが、野田サトル先生の作品が正当に評価されそうな少年誌へ移籍して欲しいと切に願います。
アフタヌーン増刊シーズンで「オーディナリー±」を描いていた高橋慶太郎が、女とバイクと銃撃戦のサンデーGXに移籍して「ヨルムンガンド」の連載によりブレイクしたように、野田サトルさんも他誌へ移ることでブレイクしてくれたらなあと思いますよ。

以上、結局愚痴になってしまいましたが、野田サトル先生の次回作にも期待しておきましょうということで、チャンピオンで待ってますっ。



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