賽ノ目手帖Z

今年は花粉の量が少ないといいなあ

プライドという言葉

エアマスター」(柴田ヨクサル)というマンガで、「安いプライド」という言葉が出てくる。
ジョンス・リーというキャラクターが、こんな具合に説明しているのだが、当時えらく燃えたものである。

 

このセリフのポイントは、“安い”という箇所にあり、それは高潔な、廉潔な人間にのみ所有することが許される高貴なソレではなく、誰にでもある、チンケな、安っぽい、しみったれたプライドであると言える。
だから、誰にも尊敬されないし褒めもされない。なんと馬鹿なヤツだと、呆れて物も言えないといった顔をされるのがオチである。だから自慢もしないし、言い訳もしない。「自分はこんな具合に出来てる人間なんだよ」と開き直るしかない。

 

小林秀雄は、「匹夫不可奪志」というエッセイで、この「安いプライド=匹夫の志」についての考えを述べている。
論語のこの言葉は、一般に志を立てる事がなにより肝腎だと解されているようだが、どうも、そんな易しい言葉ではないように思われる、と前置きして、「志を立てた匹夫=馬鹿」の厄介さを滔々と説き聞かせる。

 

世の中は、なんでこんな、リクツに合わないことだらけなのだろうと、かつて不思議に思っていたが、それはみんながみんな、この「安いプライド」にしがみついて生きているからなんだと思うと、そんなに不思議ではなくなってきた。
みんながみんな、この「安いプライド」を捨て去れば、世の中はずいぶんとリクツの通った、風通しの良い社会になるだろう。ただしそれは、ずいぶんとツマらない世の中であるともいえるだろう。
幸いにも(もしくは不幸にも)、そんな世の中には当分なれっこないので、ワタシたちは変わらず、自分と、そして他人の「安いプライド」相手に、すったもんだしながら生きてゆくのだろう・・・厄介なこった、面白いこった!

 

そうだ、ワタシはU2の「Pride」という曲について、書きたかったのだった。

 

プライドというのは、実際には人間の特徴の中で最も価値のないものの一つだ。

 

と、ボノさんが「U2byU2」の中で述べているが、では、何故そんな言葉をタイトルにしたのかと考えると面白い。
素晴らしい非暴力のアンセム」であり、ライヴでも欠かさず演奏されているこの曲について、ワタシは素直に熱狂していたのだが、なぜタイトルが「プライド」なのか、それがずっと疑問だった。

 

この「プライド」こそが、戦争なり不和なりを引き起こす原因ではないのか。
当時ボノさんがよく口にしていた「サレンダー(Surrender)」とは、対極にある言葉なのではないか。

 

「命を奪われようとも、あなたのプライドは奪えやしない」と歌えば、誰だって、自分のプライドをもくすぐられ、高揚する。だが、プライドとは、「最も価値のないものの一つ」なのだ。

 

この曲で、ボノさんは逆説を語っているのか。
この曲は初め、レーガン大統領のことを念頭に置いて作っていたと、どこかの記事で読んだことがある。
「One man come he to justify」といったフレーズなどに、その影響を感じさせる。

 

Prideの歌詞を改めてじっくり読んでみて、この曲は一筋縄ではいかない、多様な感情を秘めた曲なんじゃないかと思うようになってきた。

 

In the name of love
What more in the name of love.

 

というキメの文句も、今までは、ただただ激昂して歌っていたが、本当はもっと苦々しい気持ちで歌うべきものなのであろうか。う~ん、ボノさんに訊いてみたいぞ。