賽ノ目手帖Z

今年は花粉の量が少ないといいなあ

「死してなお踊れ 一遍上人伝」(栗原康)が面白かった

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一遍上人って言いますと、踊り念仏の人で、人々を救うために踊って踊って踊りまくったというイメージで、なんというかロックですよね

 
ロックがなくてもロールがあるぜ!って感じですけど(どんな感じじゃ)、「捨ててこそ」という言葉通り、死後はなんにも残さなかったというのもロック。そういう意味で上人と呼ばれるお坊さんの中では一番親近感があるお人です。
 
この本はその一遍上人の評伝。文章がまたロックでねえ、ロクでもないんですよ。
そのひらがなばっかな踊りくねった文章にはシビれました。
 
とりあえず手に取ってご覧くださいとしか言えないのですが(ちなみにワタシは作者のことなんにも知りません)、一番心を動かされたのは「おわりに」にある空也上人のお話でした。一遍じゃないんかい!
 

いや、一遍上人の評伝も凄く良かったんですけど、短いエピソードながら空也上人が踊り念仏を始めるきっかけとなった話が感動的だったので、そこを引用させていただきます。

 
 しかし、このシカの角ってなんなんだろう。そうおもってると、かなりくわしく解説がかいてあった。みんなで食いいるようにむさぼりよんだ。こうかいてある。
空也は九〇三年うまれ。醍醐天皇の第二皇子としてうまれ、出家して、念仏をお寺のなかや貴族のためだけでなく、衆生にひろめるために全国をわたりあるいた。金持ちだけじゃない、貧乏人もみんなすくわれないとダメなんだと。
とちゅうから、京都の街なかに的をしぼって、念仏をひろめはじめた。もちろん念仏をとなえたって、さいしょはいまいち衆生につたわらない。意味がわからないのだから。無視されたか、あるいは、あたまのおかしい乞食坊主あつかいだったろう、トホホ。
 そんな空也が中休みのために、鞍馬山にひきこもっていたときのことだ。野山にでて、念仏をとなえていると、シカがよってきて気持ちよさそうに念仏をきいてくれた。
おお、オレのことをわかってくれるのか。人間すらわかってくれないのに。うれしくなって、ひたすらナムナムと念仏をとなえた。すると、シカもシカで、フオオオ、フオオオオオオ!!! と、全力で鳴き声をあげてくれる。
いいよ、いいよ、山河草木、ふく風たつ波の音さえも、なむあみだぶつともうしけり。畜生の鳴き声だって、念仏だ。空也は毎日、シカの鳴き声をきくのが楽しみになった。なんかさとった気がする。
 でも、ある日のことだ。シカがばったりとこなくなる。夕方になっても、夜になっても、鳴き声さえきこえてこない。どうしたことだろう。
村人にきいてみると、衝撃の事実がわかった。猟師の定盛というやつが、弓矢で射殺して食ってしまったというのである。ああっ、ああっ。空也はショックで嘆きかなしんだ。元気がなくて、もう死にそうだ。
すると、そのはなしをきいた定盛もびっくりしてしまう。ガーン。オレはなんてことをしてしまったんだ。お坊さんの友だちをぶっ殺してしまうなんて。やっちまったなあ。
それで食ってしまったシカの皮をキレイにはぎとり、ついでに角もきりとって、空也のもとにやってきた。定盛はその皮と角をさしだすと、空也にむかってこういった。スミマセンでした、オレ、出家しますと。それをきいて、空也は感動してしまう。
おお、すげえ。シカが人間を得度させたぞ。オレがいくら仏のおしえを説いても、人間にはぜんぜんつたわらなかったのに、それをシカがやってのけたのだ、命を賭けてやってのけたのだと。
 これで空也もすくわれる。そして、あらためて決意したのだ。オレも死を賭して、すべてをなげ捨てて、衆生をすくうのだと。地位も名誉も財産も、人間であることさえも捨ててしまえ。
そうやって、自分の身なんてどうなってもいいから、ひとになにかしてあげたいとおもうことが慈悲なんだ。というか、そういう無償のこころをつたえましょうというのが、念仏じゃないか。捨ててこそ。
シカだ、シカになれ。オレもおまえもシカになれ。空也は定盛からもらったシカの皮を身にまとい、手には角をつけた杖をもって、京都の街なかにやってきた。フオオオ、フオオオオオオ!!! 
シカのように鳴きさけび、とびはねながら念仏をとなえた。全身で念仏を表現したのだ。気づけば、町じゅうの貧民が続々とあつまって、空也といっしょにおどってる。
 
ルイ先輩!!!

 
ルイ先輩は関係ないだろ。とまあ、こんな調子で一遍上人のことも描かれているのですが、一遍上人はお坊さんなのに余裕で厳島神社とか、お寺のみならず神社にもガンガン行ってきて踊り念仏しちゃう融通無碍さもまたすばら。廃仏毀釈クソ食らえ。中世はすげえやと改めて思う今日この頃です。終わり。
 
 
P.S.
この本は今年の6月に出たばかりですので、本屋さんに赴けば普通に新刊コーナーに置いてあります、すげえ! 流行に乗ってやったぜ!