賽ノ目手帖Z

今年は花粉の量が少ないといいなあ

最近読んでる本


今頃になって気付いたんですが、ヨンシーはよく口で息継ぎをするんですな。

発声する直前の「フッ」という息継ぎの声がなんかツボになってきてる賽の目です、こんばんわ。
うっかり聴いてると自分も同じところで「フッ」と息継ぎしてしまってるからコワい。お前はしなくていいんだ。なんかボノさんも「Get On Your Boots」の序盤で、やたら息継ぎしてますね。一度気になると止まらないわあ。

と、無理やり音楽ネタをもってきたところで(全然更新してなくてスミマセン)、最近ですね、渡辺京二という人の本を読んでいるんですよ。
書店かブックオフだかで作者さんの名前がふと目に入って、「ああ、橋本みつるのマンガにそういうキャラがおったなあ」と、ちょっと気になって手に取ってみたんですよ。正確にはマンガの方は「渡辺景二」っていうんですけどね。「パーフェクト・ストレンジャー」という作品なのですが、出版社が今はもう存在しないので、本屋さんでは買えないです、あはは(笑い事じゃねえ)。

そんでマンガじゃない方の渡辺京二さんなのですが、一番有名とおぼしき「逝きし世の面影」はあいにくと未読でございまして(なにぶん、ぶ厚すぎる!)、ちくま学芸文庫から出ている「維新の夢」は、小論集といった趣で、適当に面白そうなところだけ読めば良いので気軽に読めましたよ。特に第二部にまとめられた西郷隆盛に関する論考がとても面白かったです。

西郷が日本近代史上、最大の問題的人格であることはこれまでしばしば指摘されてきた。問題的というのは、彼をめぐって極端に対立し矛盾する評価が行われてきたということであり、さらには、その対立と矛盾のなかに、日本近代の問題性の全振幅が含まれているらしいということである。(「死者の国からの革命家」p329)


という、厄介きわまる人物について、たとえば渡辺京二さんはこんな風に語っていますね。

史家たちがもって西郷の最高の政治的事績とする、元治・慶応年間の政治活動については、私がここで述べる必要は何もないと思う。それは彼にとってひとつのつとめであり、義務であるにすぎなかった。(「異界の人」p318)

と、「ここで述べる必要は何もない」とばっさり切り捨てるあたりは、なかなか素敵滅法であります。
なるほど、ワタシも西郷隆盛を考える場合、どうしてもその人生の絶頂期と思われる元治・慶応年間を基準にしてしまうのですが、そも、それが間違ってたんだなあ。むしろ、その時期をすっぽり抜かしてみると、意外にすっきりと西郷隆盛の人物像が見えてくる(気がする)。
ちなみにこの人は、西郷の政治能力に関してもばっさり切り捨てちゃってますよ。

しかし、政治的工作ということでいえば、藩内においても京都においても、彼は大久保に一歩譲ったであろう。浪士による江戸攪乱によって鳥羽伏見の戦いのきっかけを作ったというので、彼を政治的謀略の大家のようにいう人があるが、彼に謀略の才、というより嗜好がなかったことは、征韓論争の際のぶざまな無策ぶりで明白である。彼には軍略の才もなかった。三軍の上に坐して微動だにせぬことができただけで、軍事指導では無知無能だった。戦好きという自称は、生命を賭けた男らしいことが好きというだけのこと。戦争とはわずらわしいきわみで二度とやるものではない、と手紙に書いたのが本音だった。(「死者の国からの革命家」p341)


と、見事なまでのデクノボー(@宮沢賢治)っぷりであります。
そういう一切の才を取り除くと、「異界の人」であり「死者の国の革命家」である西郷隆盛像が見えてくる筈なのですが、これはこれでまたえらく難解なイメージであることを、氏は以下のように表現しています。

内村鑑三はその感動的な西郷論のなかに次のような挿話を録している。「実に彼は平和を擾すことを非常に嫌つた。他人の家を訪ねても、進んで案内を乞はず、玄関に立つたまま折よく誰かが出てみつけてくれるまで、そこで待つてゐることがよくあつた程である」。彼の数ある逸話のなかで、私はこの挿話だけほんとうにおどろく。しかしこういう人格は、古い日本人にとってはある意味ではなじみ深いものであった。私がおどろくのは私が現代の日本人だからである。(「逆説としての明治十年戦争」p289)

この分かりにくさは、人によって幅があるのだろう。現代的、能率的に考える人ならば、「家に用があって来たんなら、さっさと声を掛けろよ」と、後ろから西郷隆盛の尻を蹴飛ばすかもしれない。西郷隆盛の行為になんの善も見出すことはできないだろうなと。慕わしいと感じることができるような感性を養う機会など一切なかったのだから、それは無理からぬこと。「明治は遠くなりにけり」どころの段ではないのだ。僕たちにできることは、上手に思い出すことだけなのだから。とても難しいことなのだけれども。

まあ、橋本みつるのマンガをきっかけに渡辺京二の本を読もうとするような酔狂な人間の言うことなんぞ、本気で聞く必要はないのですが、最近(でもないのかな?)は歴史ブームだそうで、これはとても良いことだなあと思います。みんなで一緒に悩もうぜ~。