賽ノ目手帖Z

今年は花粉の量が少ないといいなあ

U2とサラエヴォ

ボノ:毎晩の衛星生中継は、現実がアートを片っ端から踏みつけるという、壮大なロック・ギグを可能にしていたんだ。バンド自身がリハビリに苦労したほどさ。


ポール(・マクギネス):ラリーなんか、かなり反対していたしね。僕らが人の苦しみをエンターティンメントに利用していると思ったんだ。一方でボノは、自分たちが何か大切なものに光を当てているんだと確信していた。


ラリー:それまではロック・ショウを披露しては思いきり楽しんで、政治的なものを真面目にやったとしても、それには笑顔が伴ってたんだ。そこへ突然、人々が爆撃を受けているヴィデオ映像や、サラエヴォの人たちが「殺されます、助けに来てください」と訴えている様子を衛星中継で見せられるわけだよね。見るのも聞くのも、本当に辛かった。この人たちを利用していると非難されるんじゃないかっていう心配もあったし。ボノに言ったもの。「もうこれ以上、耐えられる自信がない。ステージの上にいるのが辛くて仕方ない」ってね。でも、ボノは押し切った。「俺はやりたい。やり遂げる」って。


ポール:一番ひどかったのは、ウェンブリー・スタジアムの時だったよ。画面に3人の女性が映って「私たちは何のためにここにいるのかわからない。この人に引っ張ってこられたのよ。あなたたちは楽しい時間を過ごしているのね。でも私たちは違うわ。あなたたちは、私たちのために何をしてくれるの?」と言ったんだ。ボノが答えようとしたら、彼女たちはそれを遮って「何もしてくれないのはわかっているわ。ロック・ショウに戻るつもりなんでしょう。私たちがここに存在していることさえ、忘れてしまうのよ。そして、私たちは死んでいくんだわ」と言ったんだ。ウェンブリーでのショウの真っ最中にね。その後、ショウの盛り上がりを取り戻すことは全然できなかったな。


ボノ:あれは、いたたまれなかった。でも次の日、感銘を受けたブライアン・イーノが“ウォー・チャイルド(War Child)”というプロジェクトに関わることになったりして、いろいろな素晴らしいことにつながっていったんだ。これをきっかけに行動を起こす人もいれば、ただひたすら怖い思いをした人もいたというわけだよ。(すべて253ページ)


久々に「U2 BY U2」ネタ。このバンドの、卓越した自己否定能力と言いますか、あえて自分で自分の首を絞めたがる体質は、大好きであります。賢い人は、決してそんなことはしでかさないのですが、そんな賢さなんてクソだよな、というのがU2。ロックにゃ!


7月7日
2:45am。なんといういかれた一日――パヴァロッティが電話(二回も)、ボノが全員をモデナで演奏するよう説得する(ポールは根本的に反対、理由はそれが全部マフィアがらみで、ウォーチャイルドには一銭もいかないだろうというもの。ラリーとアダムは、まったくの押し掛け同然と考えている)が、最終的にはエッジとボノとわたしだけということに落ち着く。ボノがやりたい理由:「サラエボとのリンク(Zoo TVでの)でイギリスの新聞からあんだけ叩かれたんだから、そんなものでビビったりしないのを見せてやるんだ」(ブライアン・イーノ『A YEAR』より)

これがボノ。ジス・イス・アイリッシュ