賽ノ目手帖Z

今年は花粉の量が少ないといいなあ

マンガ購入記録(8月分) 中篇

「はい、続きです」
「というか、結局前回は、4作品しか紹介してなかったじゃないか」
「ちょっと『月の子』で盛り上がりすぎちゃったな。今回はさくさく進めようぜ」
「無理っぽいけど、まあ前向きに行くか」
「で、まずは坂田靖子の「バジル氏の優雅な生活」(全5巻・文庫)。これは面白かったね。というか救われたね。あの頃は残業残業で、なんか本当に8月は楽しかった記憶がないよ総武線で「バジル氏」を読んだのしか、楽しい記憶がないって、どういうことよ!?」
「前向きだ前向き。やっと休みが取れたんだから、ぶつくさ言うな」

「まあな。坂田靖子さんって、なんか“難解”ってイメージがあったんだけど、この作品読んで、完全に払拭できたよ。勿論難解なところもあるんだけど、もう苦手意識はなくなったな」
「でもシリアス系のお話は、ちょっと馴染めなかったよな」
「『射撃大会』の話とか、救いがなかったなあ。その次の、『ナポレオン・アイビー』の話は爆笑したけど」
「それは、単にエマという名前のメイドが出てきたからだろう
「思わず、シャーリーという名前のメイドが出てきてないか、探しちゃったよ」
「探すんじゃない」
「まあ、森薫『エマ』と違って、“身分違いの恋愛”に関しては、「バジル氏」の世界では寛容だったな。『月の階段』では、メイドさんにプロポーズしてたし」
「警視総監の息子のウォールワース君と、昔牢屋に入ったこともあるジェニファ嬢との恋愛話が、それに近いかな」
「あのシリーズは、一番好きだな。
  一生の頼みだ!
  僕が嫌いじゃないのなら
  僕と一生いてくれ!!
  僕は君と結婚したい!!
  どうしても何があっても
  結婚したいんだ!!
  ぼくは…ぼくは…ぼくは…
  こんどこそ絶対あきらめないぞっ!!

いやあ、青春だね!」
「そういや、結局バジルとウォールワース君は、仲直りしなかったんだよな」
「そうそう、てっきり最後は二人の仲直りで最終回かと思ってたんだけど、ひっくり返ったよ。え、これで終わり?って」
「5巻に収録されたお話は、クセのあるのが多いよな。『フィッシング』の、あの丸々4ページにわたる風景描写とか、下手したら“手抜き”と思われちゃうよな」
「ものすごく多面的なマンガ家さんなんだなあって思うよ。正直読んでて、ついてくのが苦しくなる時もある(笑)」
「まあ、お前ももっと精進しろってことだな」

「まあな。で、次は萩尾望都の「マージナル」(全5巻)。萩尾望都は、つくづく砂漠が好きなんだなあって思ったよ」
「感想はそれだけか」
「多分、この作品が、最高峰なんじゃないかとも思った。これ以上があるんですか?」
「知らねえよ」
「しかし、惜しいな。この作品に散りばめられてる、いわゆる同性愛的な描写がなければ、大手を振って薦められるんだけど、こういうのが苦手な人には、とことんダメだろうな。オレは、今市子とか、よしながふみとかで鍛えられてたから、大丈夫だったけど」
「それは、自慢できることなのかな?」
「自慢じゃないが、今のオレは、大抵のBL作品は読めるぞ」
「本当かよ」

「・・・本当いうと、よしながふみの『ジェラールとジャック』あたりが限界。それ以上はムリです
「そんだけ読めれば充分だよ」
「しかし、『マージナル』の場合、女(ウーマン)が存在しない世界が舞台だからな、女がいないんだから、男とヤるしかないだろう!って、そう思いませんか?」
「オレに同意を求めるな」
「しかし、こういう“なにかが欠落した世界”、“喪失感を抱えた世界”というのは、はかなげで切ないな。小松左京の『お召し』とかを思い出すよ。久しぶりにこういうのを読んだけと、やっぱ、ぐっとくるね」
「で、この作品では、萌えキャラはいなかったのか?」
「だから、いつだったかのラグトーリン萌えってのは、冗談半分なんだってば!」
「じゃあ、半分は真面目だったんだ」
「全然ウソかというと、そうでもないんだけどな。もう次いこう、次!」

「次は、井上元伸の『桃魂ユーマ』(1巻)だな」
「これはまた、いきなり作品の質が変わりましたね」
「お前が買ったんだろうが」
「まあ、月の子→バジル氏→マージナルの三連コンボで、少女マンガはもう結構!って気持ちになってたから、ちょうど良かったといえば、良かったな」
チャンピオンREDで連載してる作品だけど、お前はどこが良いと思ったの?」
「基本的に、こういうバカマンガは好きですから。あと長身の女の子が、あり得ない身体能力で次々と男の格闘技者を倒すあたりが、初期の頃の『エアマスター』を彷彿させて、それで惹かれたってのもあるな」
「1巻の終わりでは、エアマスというか、『覚悟のススメ』に近いノリになってきたけどな」
零式防衛術か。懐かしいな。そういえば、この人は『バキ』の板垣恵介が師匠らしいけど、あんまり似てないよな。オレはむしろ『ゾンビ屋れい子』の人を思い起こして、イヤな気持ちになっちゃったよ」
アリーヤとか、確かに似てるなあ、あのキャラに」
「まあ、あの作品は一秒でも早く忘却の彼方に追いやりたいから、この話は止めにして、無事2巻が出ることを祈ろうぜ」
「そうだな、『ヤニーズ』の二の舞になることだけは、避けたいよな」
「『ヤニーズ』に黙祷!」

「次は桐原いづみの『ひとひら』(1巻)。」
「これは、やられたよな。こんなに面白くなるとは、連載当初、全然思わなかったよ」
「なんか、暗かったよな」
「そうそう、最初はなんか、主人公が半ベソかきながら、イヤイヤ入部届けを書いたり、『下らない所の連中よ』みたいな、人を見下した発言をする人がいたりとか、イヤ~ンな印象があったんだよ。それが、コミックハイが復刊してから、なにか吹っ切れたようにコメディ路線を邁進するようになって、『おおっ』と、注目するようになったんだな」
「これからも頑張って欲しいな」
「正直、『演劇部対決ってどうよ?』って気持ちがあるけど、まあ桐原いづみには、『ガラスの仮面』でも読んでもらって、上手く盛り上げて欲しいところさ」
ウォーター・・・ウォーター!
「お前はツッコミ役だろ」
「いや、たまにはオレもボケてみようかなって」

「お前もボケると、賽の目が、どっちがどっちだか混乱するだろ。で、次は、なるしまゆりの『仔鹿狩り』(全1巻)」
「少年怪奇シリーズ、第3弾な」
「これ読んで、なるしまゆりは逸材だなって、また改めて思ったよ。やっぱり、この人は短編向きの漫画家さんなんだよ」
「そうか?」
「ほら、なるしまゆりは、基本的に同人誌作家だから。オレがこの人に期待してるのは情念の爆発なんだよ。それが今回、このオムニバス形式の短編集で、久々堪能できたワケなんですよ」
「また、微妙に意味が分からないことを言い始めたな」
「だから、同人誌という表現形式に、オレが求めてるのは、愛なんですよ、愛
「・・・・・・はあ?」

「絵が上手いとか、お話作りが上手いとか、そんなのどうでもいいんですよ。どれだけ作品に愛を傾けることができたのか、同人作品の価値基準は、その一点にのみ、求められるんですよ」
「ごめん、全然意味分かんない」
「もう、面倒くせえな。リクツじゃなくって、問答無用で、胸倉つかんで『愛してるぜ!』っていうのが、同人誌の本質なんだよ。『蒼天航路』の曹操のセリフをモジっていえば、『感情をぶっ放さずして、なんの同人誌だ!』ってことだよ。分かるだろ?」
「・・・・・・」
「で、なるしまゆりは、絵も上手いし、お話作りも上手いんだけど、それはあくまで“オマケ”みたいなもんで、『少年魔法士』で言えば、レヴィの『愛そうと決めてたんだ・・・最初から』とか、この『仔鹿狩り』で言えば、ユキヤの『死霊がなんだ、ババアがなんだ、執念がなんだ、愛の方が勝つぞ!!』が、オレたちが最終的に、なるしまゆりに求めてるもんなんだよ。“愛の漫画家なるしまゆりをヨロシク」
「もう好きにしてください」
「はい」

「次に行きたいけど、そろそろ文字数がヤバそうだぞ。ここで切るか」
「う~む、まだ12作品も残ってるのか。全部語れるのか、俺ら」
「ここまできたら、やるしかないだろ。腹をくくれ」
「次回で絶対終わりにしてみせるよ。こんな大事になるなんて、全然予想してなかったなあ」