賽ノ目手帖Z

今年は花粉の量が少ないといいなあ

「毒舌仏教入門」(今東光)を読んだ

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今東光という人についてはほとんど知識がなくって、板垣恵介自衛隊にいた頃の自伝的な漫画の中で(単行本化を切に望む)、尊敬する人物としてこの人の名を挙げていたので、ちょっと気になっていた程度でありんす。

まあとにかく破天荒な人だったみたいで、大僧正という地位はなかなか偉い人なんじゃないかと推察しますが、ずいぶんと好き勝手にやってますなあと、作中に挟まれた「大僧正・遊戯三昧事件簿」というコラムを読んで感心いたしました。

銀座のフランス料理店に行ってロマネコンティを注文したり、スウェーデンから取り寄せたポルノ雑誌が税関で止められてカンカンになって抗議したりとか、まあ無茶苦茶でござりまするがな。

天台宗でもこんだけ奔放にふるまえるんなら親鸞様も比叡山を飛び出さなくても良かったんじゃないかとかつい思ってしまいますが、もちろんそんなくだけた話ばかりでなく、真面目な説法もございます。

伝教大師比叡山をお開きになって、三千の学徒を集めて、お前たちのうちでこういうことができるやつは国の宝だ、こういうことができるのは国のお師匠さんだ、こういうことができるのは国用といって便利に使える先生みたいなものだ、とおっしゃった。そういうふうにいくつか分けながら教育して、最後に何が一番大事かについての言葉を残されましたが、結局、それは、まったく手近なことでした。お弟子たちに、「弟子を殴るなよ。弟子をたたいてくれるな。私の遺言だ」と言われた。涙が出るようですね。自分の弟子をたたくな。自分の後輩を殴るな。(23ページ)

日本で一番エラいお坊さんが最期に残した言葉が「弟子を叩くな」ですよ。ありがたすぎる!
と、思わず手を合わせたくなるような心を動かされた話も多々あったのですが、一番興味をそそられたのは大僧正が若いころよく通っていた銭湯で出会った不思議な人の話でした。

 この風呂で毎日、必ず顔の合う客がいました。髪は縮れ毛で、眼はぎろりと底光っていて、口を開けると乱杙歯、ゾッとするような風貌で、目が合って睨まれるたびにきんたまが縮み上がる思いだった。
 その風呂が長い。まず縮れっ毛の頭を丹念に洗う。それから顔を丁寧に洗い、背中は三助に洗わせ、長い時間をかけてきんたまを洗い上げたかと思うと、足の指の股まで石鹸を泡立てて洗うんだ。それが毎日のことだから、驚くやら感心するやらだったが、いったいあいつはどこのどういう野郎かと思って、ある日、番台の女に訊いてみた――「あの人は、妙な人だね」と誘いの水を向けると、「まったくよ。毎日来ちゃあ丹念に体を洗ってるわ。別に汗まみれになるってわけでもないのに」「どんな人だろうな」「なんでも小説家だってよ」「えっ、小説家かい。だれだい」「谷崎さんとか言ったわねえ…」(219ページ)


谷崎潤一郎って、そんな人だったんだあ。奇人にも程がある。なんかイメージと全然違ってたよ。
なにはともあれ、面白い話をたくさん聞けたので他の本も読んでみようと思いますです。終わり。