賽ノ目手帖Z

今年は花粉の量が少ないといいなあ

How To Dismantle An Atomic Bombについて

何を今さら・・・

と、我ながら思いますが、この前の記事ワタシの人生で一番多く聴いたアルバムなどと書いてしまい、はて、そういえばなんでワタシは、こんなにあのアルバムが好きだったのだろうと、ふと我に返ってしまった次第。
いや、本当にあの頃は朝起きたらCDラジカセをつけてHTDAABを聴き、通勤時もiPadでHTDAABを聴き、会社でもHTDAABをずっと流していて、帰りの電車でもHTDAABを聴いていて、家に帰ったらHTDAABを聴いて寝るという、まあ意識のある間はのべつくまなくHTDAABを聴いていたような状態で、我ながら少しキ○ガイじみていたと思う。あんなに1枚のアルバムにハマることは、もう一生ないだろう、さすがに。

それは多分、あのアルバムには、U2といいましょうか、ボノさんの個性が、これまでになくハッキリと自分の目に映し出されていたからだと、今にして思います。
冒頭の大ヒットシングル「Vertigo」は、ひとまず置いといて(なんでやねん)、真のオープニングと言える「Miracle Drug」は、ある意味U2の集大成的な曲ではないでしょうか。U2というバンドが30年近く存続していたのは、この曲を生み出す為だったんだと、ワリとマジでそう考えてましたよ、ええ(笑)。日本公演でこの曲が演奏されなかったのは、まことに残念至極であります。

3曲目の「Sometimes You Can't Make It on Your Own」は、ボノさんの父親の葬儀の際に歌った曲。ボノさんとボノパパの関係は、なかなか難儀なものだったようですが、このアルバムのタイトルは親父さんの名前にちなんだものでもあるようですね。父親の死は、このアルバムに深く影響を及ぼしています。

ボノと親父さんの関係はとても複雑で、いつも何かしら軋轢があった。彼らはとても良く似ているんだよ。口に出しては一度も言わなかったけど、親父さんはボノのことをものすごく誇りに思ってたはずだ。どうしてそれを言葉にしてやれなかったのか、僕には分からないけどね。(「U2 BY U2」p307より)

二人の関係は、この曲を聴くと、なんだか凄く分かるような気がします(笑)

続いて4曲目の「Love and Peace or Else」は、「Sunday Bloody Sunday」から連綿と続く反戦歌。個人的には「Bullet the Blue Sky」に引導を渡した曲として記憶に残る曲であります(笑)
5曲目の「City of Blinding Lights」、9.11以降、初めておこなったアメリカのライヴで、2万人の観衆が涙を流す姿を見て「Oh, you look so beautiful tonight」(ああ、今夜、君たちはなんて美しいんだろう!)と叫んだエピソードが基となった曲。この曲を初めて聴いた頃は、ウツクシ過ぎて気持ち悪くなりました(笑)

6曲目の「All Because of You」は、これまた実にU2らしい曲。こういう曲をやらせたらU2の右に出る者はいない。いや一杯いると思うけど、賽の目的には存在しません(笑)。「I like the sound of my own voice, I didn't give anyone else a choice」(俺は自分の声が大好きなんだ。他の連中にツベコベ言わせないぜ)という歌詞もボノさんらしい(笑)。「Vertigo」、そしてこの曲をもって、彼らが正真正銘のロックバンドであることを証すに充分なナンバーです。

うってかわって7曲目の「Man and a Woman」では、一転アダルトな成熟した曲を披露しています。ヨシュア・トゥリーの頃から、彼らはここまで来たんですねえ。もうWith Or Without Youのような、ほとんど狂気に近い熱情はなく、「In the mysterious distance, Between a man and a woman」(男と女の間には奇妙な隔たりがあるんだ)と、諦観をもって歌っています。

8曲目の「Crumbs from Your Table」は、最初は難解な歌詞に戸惑いましたが(酔っ払った時に出来た曲だなんて言ってましたから余計に)、かなり後になってアフリカの事を歌った曲なんだと理解しました。


Where you live should not decide(どこで生きていくのか、自分では決められない)
Whether you live or whether you die.(生か死か、それさえもだ)
Three to a bed/ Sister Ann, she said(病院では1つのベッドに3人が寝ている。シスター・アンはこう言った)
Dignity passes by(人間の尊厳が捨て去られている、と)


And you speak of signs and wonders/ But I need something other(あなたは奇蹟のことをお話になる/でも僕に必要なのは他のことなんです)」という歌詞も強烈ですね。「Crumbs from Your Table」(テーブルからこぼれ落ちたパンくず)というタイトルは、聖書から取られてます(→マルコによる福音書7章24節~30節)が、「主よ、そうです。しかし、食卓の下の子犬でさえ、子供たちのパンくずはいただきます」とは、これまた強烈な言葉です。さすがのイエスも「その言でよろしい」とOKしちゃってますよ(笑)

ノエル・ギャラガーの言葉からヒントを得て歌詞を書き上げた、9曲目の「One Step Closer」は、恥ずかしながらごく最近になってこの曲の良さが分かってきました。正確にはノエル兄さんがソロアルバムを出した頃くらいに(笑)
まるでこの世ではなく、あの世で奏でているようなサウンドに、なにかを押し隠してるかのような、でも吐き出さずにはいられないかのような、不思議な調子でボノさんは歌い出します。またひとつ、理解できるようになったんだ。
生きる事は知る事だ、などと無駄にカッコイイことを思わず言いたくなってしまいますが(笑)、生きている時に死を知るのは極めて難しい。ていうか無理(笑)。「哲学とは死の学びだ」と言ったのはソクラテスでしたっけ。さすが哲学、難解です(笑)
われわれには理解できないことが少なくない。 
生き続けて行け。きっとわかって来るだろう。
と、ゲーテの言葉お茶を濁すことにします(笑)

10曲目の「Original of the Species」は、ボノさんがエッジの娘さんであるホリーのために書いた歌詞を基に作られたナンバー。非常に感動的でかつ、不思議な若々しさを備えたこの曲は、アルバムのハイライトと言ってよろしいでしょう。初期ナンバーの「Story For Boys」から一部拝借している「Vertigo」よりも、この曲の方が初期ナンバーを髣髴させるのは何故なんだろう。「青春とは心の若さである」と言わんばかりの青春っぷりです(笑)
ちなみにスピノザという哲学者がいて、彼の書いた本の中に「永遠の相の下に(sub species aeternitatis)」という言葉があるのですが、残念ながら、この曲とはあまり関係ありません(笑)

この果てしない高揚感は、ラストナンバーの「Yahweh」に至ってさらに盛り上がります。いやあ、この曲つながりは神がかりだなあ。まさにヤハウェ(笑)
かなり初期のレコーディングの頃から名前が挙がっていた曲のなのですが、このタイトルを聞いた時は、いささか不安な気持ちにかられました。大丈夫なの?
しかし、その心配は杞憂でした。普通に名曲でした(笑)。ロックしてるアルバム・ヴァージョンも良いのですが、シンプルに演奏しているライヴ・ヴァージョンも素晴らしいですね。

ボノさんにとっての神というのは、こういう存在なのか、と思ってしまいます。常に自分を更新してくれる存在。殷の湯王という人は、洗面器に「まことに日に新たに、日々に新たにして、また日に新たなり」という言葉を彫りつけていたそうですが(湯之盤銘曰苟日新日日新又日新)、ヤハウェというのは、そんな洗面器的存在ではなかったかと(笑)。失礼だな君はっ。

Take this heart / And make it break(この心を持っていけ、そして壊してくれ)」という言葉で終わるHow To Dismantle An Atomic Bombというアルバムは、なんというか、まるで自分の為に作られたかのようなアルバムでした。なんでこんなにも理解できるんだろう。なにからなにまで、隅々まで分かってしまう(「One Step Closer」を除いて)。今までこんなアルバムに出会ったことがありませんでした。そうか、自分が今までU2を聴いていたのは、このアルバムを聴く為だったんだと得心しました(笑)

これでU2が解散すればめでたく大団円となるのですが(笑)、どっこいまだまだU2伝説は終わりません。これからもワタシたちを気絶させてしまうアルバムを出し続けてください。と、なんかこのブログも終わってしまいそうな勢いですが、どっこいまだまだ終わりません。
今頃になってようやく「One Step Closer」が分かるような気がしてきたので、嬉しくてこんな記事を書いてしまいました。ふう、これでなんとか、How To Dismantle An Atomic Bombから卒業できそうです(笑)




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How to Dismantle an Atomic Bomb