賽ノ目手帖Z

今年は花粉の量が少ないといいなあ

歌詞の方面からNLOTHをアプローチしてみる(後編)

前篇の続き。いつも遅くてスミマセン。


07.Stand Up Comedy

ロック・スターに立ち向かえ。
ナポレオンはハイヒールを履いている。
ジョセフィーヌ、でかいアイデアを持った小男には気をつけろ。

思うに、ボノさんがナポレオンに興味を持つようになったのは、ナポレオンが制定したレジオン・ドヌール勲章を、2003年にシラク大統領からもらった時からなのではないかと思うのですが、ボノさんはThe Flyの時くらいロックスター然として歌ってますね。「でもぼくが確実性を乗り越えようとしている間、小柄な老婆みたいに道を渡る神に手助けするのはやめてくれ」とか、歌詞もずいぶんと人を喰ってます。

「確実性」(certainty)という言葉は、「Moment Of Surrender」にも出てきましたが(In the realm of certainty/Even on our wedding day)、反確実性というのがNo Line On The Horizonのテーマなのでしょうか。確実なものは何もない、水平線に線はない、と。

ワイヤーはぼくらの二つの塔の間に延びている」というのは、ニーチェの「ツァラトゥストラ」(序説部)を思い起こさせますね。ボノさんはニーチェに対して否定的な(でも気になっている)見解を持っているっぽいので、そう考えると面白いです。

と、前半のコメディなノリに比べ、後半はシリアスな、というかいつも通りというか、「神は愛。そして愛は進化の最良の形」(God is love/And love is evolution's very best day)と、愛の賛歌を歌っております。愛は進化の最良形かあ。そう衒いなく言えるのはロック界広しといえどもボノさんだけですね。

戦争が始まっても何でもない。神は愛である。戦争は歇(や)んでも何でもない、神は愛である。国は興きても何でもない、神は愛である。国は亡びても何でもない、神は愛である。しかり、よし全宇宙は消え失せても何でもない、神は愛である。純信仰の立場より見て歴史と科学とは何でもない、神は愛である。(『内村鑑三所感集』より)

こういう信念を持った人は強いなあと思います。時々ボノさんが内村鑑三の言葉を見て、どう答えるのか、シミュレーションしたりしますが(妄想ともいう!)、ボノさんにせよ、内村鑑三にせよ、彼らの強さが羨ましい限りであります。
それにしても最後の

ぼくらは星でできている。(We're made of stars)
さあ、みんな。(C'mon ye people)
立ち上がって、それから腰を据えよう。(Stand up then sit down)
愛のために。(for your love)
は(前半はジョン・レノンの「インスタント・カルマ」みたいだ!)、「立ち上がって、また座るの?」と、ツッコまざるを得ません。これが反確実性というものかっ。


08.Fez -- Being Born

この曲の前半部の淡々とした情景描写は、「Heartland」を想起させる。アメリカからアフリカへ。旅する心は、変わらない。
A speeding head, a speeding heart」(理性も感情も加速度的に巡る)
これがU2なのだ。この速度こそがU2のキモなのではないかと思う。
これまでのモヤモヤしたものが、この曲で一気に払拭される。どこまでもどこまでも、心は果てしなくさまよっていく。たとえ体が滅んでも夢は枯れ野を駆け巡ってしまうのがU2。

次の「Im being born, a bleeding start」(ぼくはまさに生まれている。血まみれの出発だ)もまた素晴らしい。「父母未生以前の本来の面目」なんて言葉が禅にはありますが、さすがにそれは牽強付会に過ぎるでしょうか?(笑)

NLOTHの中でもっとも飛べる曲だけに、歌詞も飛んでますね。前回のアルバムはそういう曲ばかりだったのですが、今回はちょっと違うように思えます。前回がプラトン的というなら、今回はアリストテレス的というか(笑)


09.White As Snow

ぼくが生まれた場所には丘なんてまるでなかった」と、「Crazy Tonight」の「丘じゃなくて山なんだ」をちょっと連想しちゃいますが、まあ関係ないですね。

関係ないといえば、「ガンスリンガー・ガール」(相田裕)というマンガがあって、その第3話が「THE SNOW WHITE」っていうんですね。いやまあ、本当に関係ないんですが(笑)、

My brother and I would drive for hours(兄とぼくは何時間もドライブした)
Like we had years instead of days(ぼくらに残されているのが数日間ではなく、何年間もあるみたい)
Our faces as pale as the dirty snow(ぼくらは二人とも、汚れた雪みたいなひどい顔色をしていた)

というのを、トリエラとヒルシャーに置き換えてみるのもアリかなと。ほら二人はフラテッロ(兄弟)ですし(笑)
トリエラとヒルシャーは、どんな結末を迎えるのですかねえ。雪のように白い子羊はどこに?


10.Breathe

6月16日、9時05分、ドアベルが鳴る。
戸口に立った男が「もしもう少し長く生きてたければ」と言う。
「いくつか知っといてもらいたいことがある。三つ」

3つって、なんなの~~!?

と、物凄く気になるのですがボノさんは教えてくれません。しかし、韻を合わせるためとはいえ、オウム(cockatoo)はないわ~。

この曲には気になる言い回しがとても多いですね。
毎日ぼくは繰り返し死んで、また繰り返し生まれなおす」は、睡眠の事を言ってるのでしょうか。
眠りは死への前払いである」と言ったのはショーペンハウアーでしたっけ?

きみはまったく、ぼくに必要なものを持ってない」は、「Orignal Of The Species」の一節、「僕は君になんでも上げるよ、君が欲しいもの以外はね」(I'll give you everything you want/Except the thing that you want)を思い出します。意地悪だなあ、ボノさん(笑)

6月16日、中国株が上昇する。
それでぼくは何か新しいアジアのウィルスにやられてしまう。

も、なんだか意味深です。ウィルスってのは、あんまいい言葉じゃないですよねえ。次の「Ju Ju man, Ju Ju man」というのは、「呪術師」なのではないでしょうか。う~ん、不気味だ。

頭の中のバンドがストリップ・ショーをやってる間に」は、ボノさんすっかり「striptease」という言葉がお気に入りになってしまったみたいで困りますね。アダム様の影響でしょうか?(笑)

歌はぼくらの瞳の中」(The songs are in our eyes)は、どうやっても「ミラクル・ドラッグ」の「The songs are in your eyes/I see them when you smile」を思い出してしまいますが、この曲は本当に過去の歌詞を多用してきますねえ。
最後に、当然のように満を持して「grace」も出てきてますし(笑)、この曲がライヴのオープニングに起用されるのも当然な気がしてきました。


11.Cedars Of Lebanon

ぼくらの悪いところは、だらだらと会話に溺れてしまうこと
ぼくらの良いところは、要約の才能

ここを読んで「皇国の守護者」(伊藤悠)を思い出したのは、自分だけでいい。ボノさんは良い軍人になれるかも?
前半の語りかけるような歌い方は、「Walk To The Water」っぽくて好きです。ただ、あの曲は後半から盛り上がってまいりますが、こちらは最後までまったく盛り上がりません(笑)


敵は注意深く選びなさい。彼らがきみの存在を意味付けるんだから。
彼らに興味を持ちなさい。いくつかの点で彼らはきみを気遣うから。
人生の始まりには姿がなくとも、きみの物語が終わるとき、彼らは立ち会う。
友達よりもずっと長く、最後まできみと一緒にいる存在なんだ。


ここらへんはなんだか、アラブの格言みたいですねえ。「罪深い群衆がミナレットに反映する」というのも、なにやらイスラム批判のように見えてきて、そういえばサルマン・ラシュディとご縁があったんだっけと、どんどんヤバい連想が生まれてきたので、この話題は中止(笑)

最後の最後に、こんな暗い曲を持ってくるあたり、さすがU2と言いたくなりますが、個人的には、せめて「Mothers of the Disappeared」くらい高揚感のある曲をラストに持ってきて欲しかったです。
このアルバム全体に漂う「物足りなさ感」は、この曲を最後に持ってきたことが原因のひとつなんじゃないかと思っちゃってます。歌詞を読んでみると、ひどく客観的というか、「情念」に乏しい感じがする。ボノさんらしくないなあ。



こんなところでしょうか。「Get On Your Boots 」を外したのはワザとです(笑)
曲に、完全に感情移入できてないせいで、歌詞も、のめり込んで鑑賞できてないですね、こうして振り返ると。
でも、歌詞を何度も読み返したおかげで、好きになった曲もあります。White As Snowとか。まだまだ、聴き込んでいかないと、いけないです。
最後に、改めて酔月亭さんに御礼申し上げます。