賽ノ目手帖Z

今年は花粉の量が少ないといいなあ

私を本当の名前で呼んでください(ティク・ナット・ハン)


 難民のなかには若い女性もたくさんいて、海賊に強姦されることもよくあるのです。国連をはじめ、多くの国はタイ政府を援助して、このような海賊行為を取り締まろうとしていますが、海賊たちの難民への加害行為はあとを絶ちません。あるとき私たちは、小さな難民ボートの少女が海賊に強姦されたという手紙を受けとりました。この少女はまだ十二歳でした。この直後、彼女は海に飛びこんで自殺してしまったのでした。
 はじめてこのような事件を聞くと、だれでも海賊に激怒します。ひとりでに少女のがわに立ってしまいます。しかしもっと深く見つめてみたら、この事件はちがったふうに見えてきます。この少女のがわに立つのは簡単なことです。怒りに燃えて銃をとって海賊を殺せばおしまいです。しかし、そのようなことはできません。私は瞑想のなかで、自分が海賊の村に生まれ、この海賊と同じ状況に育てられた姿を思い描いてみました。そうすれば、この私だって、いとも簡単に海賊になってしまうでしょう。シャム湾ぞいの村では、毎日何百人もの子どもが生まれます。そして教育者やソーシャルワーカー、政治家たちが何らかの良策を講じないかぎり、二十五年後には、このなかの多くの子どもたちが海賊になってしまいます。まちがいなく、そうなります。もしあなたや私が、きょう、このような貧しい漁村に生まれたら、私たちは二十五年後には海賊になっているでしょう。銃をとって海賊を殺したら、私たちは自分たちを撃ち殺すことにはならないでしょうか。なぜなら私たちはみんな、程度の差こそあれ、このような状況に責任があるからです。